マーク・ジェフリー,データ・ドリブン・マーケティング - 最低限知っておくべき15の指標を読んだ.どうやら原著は2010年1月に発刊されたらしく,古さを感じる部分があるが,勉強のとっかかりとして基本を押さえるには良いと思った.

概要

かつて,マーケティング施策は定量評価が難しいという風潮があったため,行動に対して評価されることが多かった.そこで本書では,マーケティング施策を定量的に評価するための15の指標と,これらを用いた施策管理方法を紹介する.

1. マーケティング格差

  • フォーチュン100社に含まれる大企業の中でさえ,マーケティング格差が存在する(2010年当時).

2. 何から始めるべきか?

  • データ・ドリブン・マーケティングの障壁として,次の5点がある:
    • 何から手を付ければいいかわからない:まずは小さくはじめて,成功事例を積み上げること.
    • 因果関係がわかならい:適切な指標を使うこと.また,対照実験を行うこと.
    • データが足りない:B2B企業は,代理店にデータ共有のメリットを示すこと.
    • 経営資源やツールが足りない:頑張って絞り出すこと.
    • 組織や人に問題がある:小さく仲間づくりを始めること.可能であれば,役員も巻き込むこと.
  • データ・ドリブン・マーケティングを実践するロードマップ:
    • 設計:関係者が理解しやすい明解な実行計画.
    • 診断:事実把握および洞察.
    • 機会:マーケティング機会の特定とアクションプラン.
    • ツール:定期的なレビューを行う組織体制の構築.
    • プロセス:定期的なレビューに基づく意思決定.

3. 10の伝統的なマーケティング指標

  • ブランド認知率:商品やサービスの想起で計測する.大規模調査をする予算がない場合は,カスタムURLなどを用いてリーチを計測する.
  • 試乗(お試し):比較検討・評価段階の指標.試乗など,購入前の商品のお試し使用で評価する.
  • 解約(離反)率:ロイヤルティ指標.解約率や離反率.年単位で計算されることが多い.
  • 顧客満足度:CSAT(Customer Satisfaction).マーケティングの黄金指標.「友人にこの商品を勧めますか」というアンケートで計測される.
  • オファー応諾率:マーケティング施策の運用効率を表す指標.
  • 利益:売上高 - 費用.
  • 正味現在価値:NPV(Net Present Value).複利割引した将来的な利益の総和.NPVが正になる施策は実行する価値がある.
  • 内部収益率:IRR(Internal Rate of Return).NVPが正になるための,利益の割引率.
  • 投資回収期間:売上高が費用を上回るまでにかかる期間.
  • 顧客価値指標:CLTV(Customer Lifetime Value).当該顧客の将来的な価値を複利割引して総和したもの.CLTVが高い顧客は優良顧客である.

4. 5つの重要な非財務系指標

  • ブランド認知率,試乗(お試し),解約(離反)率,顧客満足度,オファー応諾率を詳説する.
  • 3年間の離反率を1年間の離反率に換算するとき,単純に3で割っていいんだっけ?三乗根とかじゃないの?
  • ​優れたロイヤルティマーケティングとは,企業の経済的負担が少なく,かつ顧客への価値提供が大きい施策.
  • ​ 需要喚起型マーケティングにおいては,顧客獲得単価が顧客獲得利益より小さい場合,そのようなキャンペーンは中止するべき.
  • オファー応諾率の改善や送付単価の低減は,マーケティング費用対効果を劇的に改善する.

5. 投資リターンを示せ

  • 利益,正味現在価値,内部収益率,投資回収期間の詳説する.
  • 売上高を営業の評価指標にする企業が多いが,本来は利益を評価指標にすべき.
  • マネジメントの意思決定では,絶対的な正解や不正解は存在しない.しかし,より現状にマッチした答えは存在する.
  • 無借金経営の企業では,企業価値を発行済み株式数で割ったものが株価となる.つまり,あるマーケティング施策の正味現在価値を株式数で割ると,その施策が株価に与える影響と等しくなる.
  • 多くの上場企業では,経営陣の賞与は株価と連動する.
  • 内部収益率は,正味現在価値が0となる時のハードルレート\(r\)の値.内部収益率が\(r\)より大きくなる時,正味現在価値が\(0\)より大きくなるので,その施策を実施すべきである.
  • マーケティング投資収益率(ROMI)は,正味現在価値,内部収益率,および投資回収期間ををもとに,総合的に判断される.
  • ROMIの計算期間は,1年,2年,あるいは3年を利用することが多い.IT関連製品の場合は,3年を超えて計算することは稀.逆に自動車の場合は,9年間など長期間で計算される.
  • 感度分析とは,前提条件を様々に変更して,ROMIの変化を観察する.エクセルのデータフレーム機能で容易に実装できる.
  • 不確実な変数が3つ以上ある場合は,モンテカルロ法を使う.

6. すべての顧客は等しく重要……ではない

  • 顧客生涯価値(CLTV)は,継続率と割引率を考慮して,ある顧客から生涯得られる利益を総和したもの.
  • CLTVがマイナスの顧客が判明した場合は,その顧客を拒否するのではなく,その原因となるプロセスを修正する.
  • CLTVが高い顧客に対しては維持および更なるアップセルとクロスセルを,中程度の顧客にはアップセルとクロスセルを,そしてマイナスの顧客には支出の最小化を図る.

7. クリックからバリューへ

  • 5つの重要な指標:
    • クリック単価(CPC):ネット広告の評価指標.
    • トランザクションコンバージョン率(TCR):広告をクリックしてウェブサイトに遷移したユーザが商品を購入した割合を表す.
    • 広告費用対効果(ROAS):(売上 - 費用) / 費用.
    • 直帰率:滞在5秒未満で離脱してしまうユーザの割合.解約率に相当する.
    • 口コミ増幅係数(WOM):(ダイレクトクリック数 + 友人へのシェアから発生したクリック数)/ダイレクトクリック数.
  • ネット広告におけるオファー応諾率は,CTR(クリック率) * TCRに相当する.
  • アトリビューション分析とは,ユーザが推移した各ページの,売上への貢献を分析すること.クッキーを用いて実施される.
  • WOMが大きくなると実質的なCPCが減少するとかかれているが,これは各プラットフォームの料金体系に依存すると思う.例えば料金体系変更前のFacebookでは,シェア自体にコストがかかるため,口コミが増えてもCPCは減少しない(CTRは上がるが).CPC増、CTR減に…Facebook広告がクリックカウントを変更 - AdverTimes

8. アジャイル・マーケティング

  • アジャイルマーケティングとは,データ収集をキャンペーン中に行い,高速に軌道修正するマーケティングである.
  • マーケティング施策は,途中で軌道修正可能なように設計するべき.具体的には,キャンペーン開始前に,成功,失敗の基準を設定する.意思決定ポイントをあらかじめ設定する.

9. 「まさにこれが必要だったんだ!」

  • 傾向分析モデル,アソシエーション分析,決定木分析を紹介
    • 傾向分析モデルとして,ロジスティック回帰を紹介.
    • アソシエーション分析として,クラスター分析を紹介.
    • 技術的な詳細は語られていないので,別途自分で調べてまとめよう.
  • 予測の正確さもさることながら,視認性や解釈のし易さも,分析モデルにとって重要.
  • 解析マーケティングは,クロスセルやアップセル,顧客リテンション(解約率の削減)向けに多用され,ROMIと親和性が高い.
  • イベントドリブンマーケティングは,アジャイルマーケティングを一歩進めたもの.
  • 解析マーケティングの財務計画では,正味現在価値,内部収益率,投資回収期間を使って投資リターンを定量化する.重要な変数は,オファー応諾率の上昇幅と,利益の増価額.

10. データ・ドリブン・マーケティングに必要なITインフラ

  • EDW(今で言うDMP)のリスク要因:
    • プロジェクトの目的が明確に定義されていない.
    • 経営陣や経営幹部の支援がない.
    • 社内政治や社内文化と合わない.
    • 予算,時間,人材などのリソース不足.
    • システムに拡張性がない.
    • 開発技術の選定が適切でない.
    • 開発チームに適切なスキルがない.外注開発先に依存している.
    • 既存のデータベースの質が悪い.
    • 人事異動によりスキルをもった人材が流出する.
    • トレーニングが不足している.

11. マーケティングの予算,テクノロジー,プロセス

  • マーケティングに使用するテクノロジーと,業績の間に,統計的に有意な相関はない.企業業績と相関するのは,MCM(Marketing campaign management) 組織能力だけ.MCM組織能力とは,選択,ポートフォリオ最適化,モニタリング,適応学習からなる.
  • 上位企業と下位企業には,マーケティング予算配分に違いがある.上位企業は,ブランディングおよびITインフラにより多く投資しており,需要喚起型マーケティングへの投資は抑えめ.
  • 本書で紹介した15の指標を統合活用するステップ:
    1. スコアカードで成果を測定する.
    2. アジャイル・マーケティングで,柔軟に軌道修正する.
    3. 解析マーケティングで,動的なターゲティングやセグメンテーションを可能にする.
    4. MCMプロセスを向上させる.
    5. クリエイティブXファクターを活用する.

参考